グアダムール城の再生

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思い出深いルネッサンスの城グアダムール。スペインの城塞の傑作です。ここは私がスペインに来て間もない頃、パートナーの建築ファミリーのご縁で訪れたことがあります。当時最も優れた文化財で不動産として売買されている物件として見学しました。日本はバブルで盛り上がっていた頃の話なので、日本企業が投資したらいいのにと思いながら城を見たことを憶えています。

その後、この町のアンティークディーラーと知り合い、結構長期に渡って取引をしたので、城の経過はディーラーを通じて聞いていましたが、なかなか投資家がおらず手古摺っていることをいつも話ていました。確かにこういう物件は修復にどのくらい予算が必要か計算するのが難しいので、リスクのある投資です。文化財へのボランティア精神がないと出来ないチャレンジだと思います。

近年よくTV番組やドラマなどでこの城がロケ地になっているので、城は売却され修復が始まったことは聞いていたのですが、実際に訪問するチャンスは先日までありませんでした。皆さんきっとこの城がいくらで販売されたか興味をお持ちだと思うのですが、それほど大きな金額ではないのです。日本円にして約3億円です。2004年頃売却されプライベートな城として補助金などにも頼らず、修復がもう15年以上も続いています。気になる修復費用ですが、この15年間にもう10億円近く投資しているそうです。それだけあって公共施設になってしまった城郭と違い、素晴らしい修復工事が施されています。今度チャンスがあったら、あまり良くない修復例もご紹介しますが、これは本当にすごい愛情を込めた修復が時代に忠実に実施されています。

この城を建設した一族の紋章もしっかりとあらゆる場所に残っています。19世紀の終わりの修復工事はロマンチックなムードを作っていましたが、お化け屋敷のようだった初回に訪問した際の様子は感じられず、隅々まで綺麗に補修され、城が生き返っていました。

階段は19世紀終わりのリフォームで造られたものですが、これも長い年月をここで過ごし、今ではすっかり城に馴染んでいました。19世紀終わりに修復をはじめた伯爵はきっと天国で大喜びでしょう。偶然、昔ここを訪れた私がこんなに嬉しいのですから、この城を設計した天才建築家グアス一族などのスピリットは、修復工事を間違いなく見守っているはずです。

スペインにはパラドールという国立のホテルチェーンがありますが、優れた文化財である城や修道院などが修復されホテルになっています。このプロジェクトは20世紀はじめのスペインの観光事業プロジェクトですが、最も優れたビジネススタイルのひとつで、現在でも政治家が最も欲しがる赴任ポジションです。文化財が輝いている村や町は、小さくて人口が少なくても住民が暮らしてゆくためのツールとなり、パラドールがある町とない町では天と地の差があります。偉大な建造物や美術品の価値はある意味無限です。現代人が造るものがどのくらい存続可能なものであるのか疑問に思えるものばかりです。

スペインに住み始めた頃から文化財を保護する事の大切さを義理のファミリーの伝授されたので、私も今17世紀の建物をリフォームしていますが、古いモノを壊さず修復して使い続ける事は、今後もっと見直されると思います。古いものを知る職人が急激に消えてしまったので、今ここで方向転換して行かないと取り返しのつかない事態になるはずです。コロナ禍のおかげでライフスタイルが大きく変化し、若者は田舎へ戻り暮らしのクオリティを見直しています。これはきっとたくさんのものを守っていく新しいムーブメントになる気配があるので有望です。コロナの最悪をポジティブにトランスフォメーションできるような若者が、これからどんどん登場することを願います。この城を蘇らせた実業家のように。

 

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