スペイン史上最も優れた国王と女王として君臨するイサベル女王とフェルナンド王ですが、王位継承者問題が彼らにとって大変な悲劇でした。彼らの歴史を知れば知るほどゆかりの地を再訪問したくなります。ルネッサンス彫刻の傑作でもある王子フアンの墓所サント・トマス修道院を訪れ、改めてイサベル女王とフェルナンド王の偉大さを体感しました。
ある人がスペインで歴史は触れることが出来ると言っていましたが、確かにスペインで歴史は感触を味わうことが出来ます。この建物の中でもカラーラの素晴らしい大理石で造られた石櫃を触れる距離で好きなだけ鑑賞できます。19歳という若さで亡くなった王子や当時のスペイン宮廷の悲しみを想像すると、ここでは時間が止まっているように思えます。
結婚わずか6ヶ月の王子は、既に懐妊中の皇太子妃と共に、妹の結婚式に参列するためサラマンカで熱を出し他界します。先に目的地に到着していたイサベル女王の悲しみは想像を絶するものがありますが、フェルナンド王も絶望の極みであったことでしょう。ポルトガル王との結婚で嫁いでしまう娘と別れ、どんな気持ちで王子を埋葬したのかカスティーリャの高原を移動する彼らの姿が見えるようです。
この教会はフアン王子のために建造され、長さ53m幅10.5mもある巨大なもので、大理石の棺はイサベル女王の遺言に残されており、王子の死後15年後に完成しています。イサベル女王は両親から側近まで多くの人の美しい棺を造らせており、その豪華絢爛な完成度の高い彫刻には驚かされるばかりです。スペイン各地で彼女が残した数多くの霊廟は美術品としての価値が別格です。
イサベル女王の優しさを垣間見ることが出来るもうひとつの場面がこちらなのですが、教会内の両脇のチャペルのひとつに立派な大理石製の円満な騎士夫妻の棺があります。これはフアン王子の養育係であった人物の墓で、親よりもある意味親としての役割をしていたことが感じられます。実際イサベル女王とフェルナンド王はグラナダ大聖堂に埋葬されているので、王子とは相当距離があるのです。こんな風に女王や王の深い愛情や想いが感じられる光景には深い感動を覚えます。養育係もきっと失意の中、王子の近くに葬られることを願っていたのでしょう。スペイン歴代王の何人かは、このように養育係を近くに埋葬しています。
最後に祭壇画ですが、ペドロ・ベルゲ-テというスペインルネッサンスの天才画家の傑作。近くで鑑賞できないのが残念ですが、画家末期の作品のひとつで超一流芸術家を選んでいるところに王たちの気持ちが伝わってきます。
イサベル女王とフェルナンド王の悲しみが宝石のような教会を形づくっているサント・トマス修道院。是非一歩足を踏み込んでスペインの奥深い歴史の足跡を発見してみたらどうでしょう。
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