夏の楽しみのひとつがロマネスク建築巡りです。スペインは文化財が膨大なので各地にロマネスク時代の建造物が残っていますが、カスティーリャ・イ・レオン地方の山間部や田舎にひっそりと昔のままの姿を変えずに残っているロマネスク教会や修道院は、心に染みるものがあります。
こちらはスペイン北部カンタブリア地方に残るSan Martin de Elines.10世紀頃の創立だと思われますが、現在の外観は12世紀の佇まい。当時はレコンキスタと呼ばれるイスラム教徒とキリスト教徒が領土を奪い合っていた時代。ここにも弾圧され南部アンダルシアから逃亡してきたキリスト教徒が、小さな集落の中で修道院を造り生き延びてきたことが感じられます。教会の塔が展望台として防衛のために存在し用心していた様子が目にみえるようです。周辺のロマネスク教会には、全て同じような塔があります。
こちらはブルゴス県に残るSan Pedro de Tejadaというロマネスク建築のマスターピースのひとつ。Elinesの教会よりも少し古く9世紀創立と言われています。Elines同様イスラムによる迫害を逃れたキリスト教徒が創立した修道院で、同じように防衛のための塔を備えています。周囲に残る小さな村も中世の面影を強く残しているので、当時の人が表れても違和感を全く感じないような環境です。
5kmくらいの場所に残るかなりリフォームされてしまった教会ですが、ロマネスクの展望台のような塔は残っています。リフォームされロマネスク期の彫刻などは、塔のあちらこちらに組み込まれていますが、高いところに設置されたので破壊されずに健在です。2度目の訪問になるのですが、やっぱりこの塔に残る彫刻には見とれてしまいました。
入口部分の彫刻もしっかりと残っており、これだけナイーブな彫刻だと創作者は地元の地味な石職人の作品でしょう。優れた彫刻家の作品を真似しながら、自らのスタイルを作り上げていったのだろうと思います。この人達の限られた生活手段の中で生まれた創造性は純粋で、いつイスラムとの交戦があってもおかしくない時代、彼らの安らぎはこういう小さなチャペルの中にあったのだと思うとセンチメンタルにならずにいられません。
教会の隣には、こんな中世の城も残っています。ベーシックな封建時代の城はこんな感じで、当主はここから近隣の人々を守っていました。
そして、予想外にひと山超えて発見した同じスタイルのロマネスク教会。この辺りは同じ石職人グループが交流し合っていたことがよくわかります。
この教会入口には美しいパントクラトール(救世主全能者)も残っていました。
薄っすらと当時の色彩も残っていて感動的です。ロマネスク建築訪問の醍醐味は、こんな風に突然誰も知らないような小さな村の通りすがりに、宝物のような教会や修道院、廃墟を発見できるところにあります。インターネット時代の今でさえ、ガイドブックだけでは発見できない優れた建造物が多々あり、自ら探し周らないと出会えないものが残ってる宝探しと言っても過言ではありません。
この教会は尊敬する作家Miguel Delibesの家を訪ねた時に、偶然通りかかって発見しました。ロマネスク教会はあまりにも数がありすぎて、いくら調べても全て記憶することは出来ないので、見落として旅の途中通過してしまう場合がよくあります。そのためこのような発見があると、深い縁を感じますが、恐らく2度と行く事のないような教会でも、その美しさはずっと心の中に残るので、夏のロマネスク教会巡りは止められない大切な行事になっています。
コメント